荒井良二さんの新刊絵本『はっぴーなっつ』の原画展へ伺ったときのことを記事にしました。新刊のプレスリリースには、漫画「PEANUTS」へのオマージュでコマ割りがあること、荒井さん初の季節の本であることが描かれていて、そういう明るい絵本なのかなと感じておりました。ベッドの中で耳を澄ますと、「さいしょにうれしそうなとりのこえがきこえてきてね・・・・」と語り掛けてくる、わくわくするような四季の本。
ところが、原画展のインスタライブで、荒井さんが開口一番「今日は東日本大震災と福島原発の事故が起こった日です」とおっしゃったのです。ちょうど6.11でした。ずっと被災地支援をされてきた荒井さんは、絵を描くときにふっと蘇る記憶の中に、震災のことが思い浮かぶことが多いと言います。絵を描くぼくにできることとして、希望や未来を初めて意識するようになったのだと。
私もここ最近のニュースで、すごくもやもやと感じていたことがありました。震災、コロナの感染症、人災である戦争と、悲しみや不安に包まれることがあまりに続いていました。それでも悲惨な状況の中で希望を見出そうとする子どもたちを、大人の価値観でつぶしてはいないだろうかと考えるのです。自分の家に帰れない、一緒に住めない、友達と遊べない、ご飯を楽しく食べられない、勉強できない、わがままを言えない、誰も助けてくれない、そういう「不安」とか「恐怖」に支配されないような、当たり前の日常に幸せを見出すことって、とても大事なことなのでは、と感じます。
荒井さんの描いた、待ち遠しい春の表現。そこに共感できる心をちゃんと子どもに伝えたいと思います。「花粉の季節で嫌だ」とか「年度末は憂鬱だ」ということではなくて、花が咲いて嬉しい、風が吹くと一日一日と春が近づいている気がする、虫も動物も目を覚ます、その感覚を味わう余裕が大人にも子どもにもなくなってきた気がしてなりません。
何度も文章を書き直しました。うまく伝わらなかったらごめんなさい。本当はこの原画展のことを記事にする予定はありませんでした。でも、荒井さんの話から自分なりに残したい思いがあって文章を書いていたら、急に家がぐらりと大きく揺れました。 また大きな地震。ああ、また震災が蘇る。不安や恐怖がまた広がり始める。やっぱりこの気持ちを、記事に残しておくべきじゃないだろうかと感じて、書かせていただきました。
■朝日新聞社「好書好日」
当たり前の日常が続きますように……荒井良二さんの新刊絵本「はっぴーなっつ」から考える
https://book.asahi.com/article/14575581
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